「創作」の視点で人物を洞察するシリーズ。
1972年1月21日は、光田康典さんの誕生日。
『クロノトリガー』『ゼノギアス』などのゲーム音楽で特に知られている作曲家です。
というわけで今回は
「静かなる情熱の音色:光田康典」についてのお話。
光田さんは、5歳からピアノを習っていたそうです。
高校時代には映画にのめりこみ、イタリア映画『鉄道員』の音楽に感動したことがきっかけとなり、作曲家の道へと進むことになった、とのこと。
スクウェア(現スクウェア・エニックス)入社後『ファイナルファンタジーV』の効果音などを担当されていた光田さんは、どのような経緯で大プロジェクトであった『クロノトリガー』の作曲を担当することになったのでしょうか。
2017年のインタビューで語られたお話に、その経緯や人物像がよく表れています。
効果音も大好きだけど
効果音を担当されていた当時、仕事が楽しくて、ほとんど泊まりこみで作業されていたようです。
それでも「このままでいいんだろうか」という気持ちもあったのだそうです。
光田さんの背中を押したのは「作曲家としてやっていきたい」という強い思いでした。
『ファイナルファンタジーV』『ファイナルファンタジーⅥ』『聖剣伝説』などが大ヒットし、手に負えない量の仕事を与えられるようになったころ、坂口博信さん(ファイナルファンタジーの生みの親)に直接、話をしに行ったそうです。
「曲を書かせてください」
光田さんは、遠まわしに物事を伝えるのが好きではなく「言いたいことは直接本人に伝える」とのこと。
「言うのはタダ。怒られたら謝るだけ」という姿勢で伝えに行ったようです。
すると坂口さんは
「企画中の作品が正式に動きはじめたら書けばいい」と返したとのこと。
このことがきっかけとなり、光田さんが作曲に入っても「効果音」などがきちんと手分けして作業できるようにと、光田さん自身で人を手配することになり、その結果、スクウェア内に効果音、サウンドプログラマー、作曲家、などの「分業化体制」がはじまった、とのことです。
ただ自分のやりたいことについて要望を出すだけでなく、いま自分がやっている仕事についても、責任や誇りをもっていたことがうかがい知れるエピソードだと思います。
そこで新たな体制まで作ってしまうというのは、情熱が人を動かしたということになるのかもしれないですね。
クロノトリガー
企画内容について光田さんはなにも知らず、ミーティングに表れた堀井雄二さん(ドラゴンクエストの生みの親)、鳥山明さん(ドラゴンボールの作者)の姿を見て、はじめてプロジェクトの大きさを知ったとのこと。
イメージイラストを渡され、テーマ曲を書くことになります。
ミーティングにカセットデッキを持ちこみ、堀井さんや鳥山さんに聴いてもらったとのこと。そのミーティング後、プロデューサーから伝えられたのはこんな言葉でした。
「松任谷由実さんは300万人くらいの人が聴く。
それと変わらない人数の人が聴くから、そのつもりで曲を書いて」
光田さんは「さっき聴いてもらった曲はボツなんだな」と思ったそうです。
普通なら「予想を超える大プロジェクト」のテーマ曲にいきなりボツが出ると、落ちこんでしまいそうですよね。
ところが、光田さんはそこで諦めません。
お蔵入りにしていた「テーマ曲」は、光田さんが最初に鳥山さんのイラストを見たときにパッと思い描いたイメージに一番近いものだった、ということもあり、みんなが忘れたころにしれっと「蔵出し」したそうです。
すると、最初にプレゼンしたはずの曲に「これはいいね!」という反応が返ってきたそうです。
光田さんのこの「蔵出し」は、最近でもやることだそうです。
なにもない状態でプレゼンをしてもイメージが湧かないものですが、ゲーム制作が進むにつれて、世界観などのイメージが固まってきます。そこではじめてテーマ曲との合致が確認できる、といいます。
確かにそういうことはあると思います。
南の島の音楽も、現地で聴くのと自宅で聴くのとでは、印象が大きく変わるもの、と光田さんはいいます。
私も『クロノトリガー』や『クロノクロス』『ゼノギアス』の音楽が大好きです。
ゲームのサントラもたくさん聴いてきましたが「好きなゲーム音楽は?」と質問されたら、迷わずクロノトリガーの「風の憧憬」と即答します。
【BGM】CHRONO TRIGGER / Wind Scene (Extended - 15 Minutes)
この曲を聴くと、スーパーファミコンで遊んでいたころの「空気感」まで思い出すんですよね。
名作ゲームのなかの名曲ですから、さまざまなアレンジVer.もあるのですが、最終的にはスーパーファミコン版の原曲に帰結します。
プレイ中に聴きこんでいたことによって「ゲーム体験を呼び起こすのだろう」と思っていましたが、そうではなく、光田さんの音楽が「現地(ゲーム世界)へ連れて行ってくれる」ほどの力をもっているからなのかもしれません。
最終的に『クロノトリガー』では前代未聞の「音楽待ち」になるほど苦戦されたそうです。
社内で噂として聞こえてくる「平社員がやりすぎだ」といった批判めいた声にも、光田さんは挫けません。
新しいことをやる場合、必ず批判は生じるものだし、自分の仕事は「自分の音楽を最後まで仕上げることだ」と考え、走り抜けたそうです。
多くのファンを獲得したこの作品ですが、光田さんは「ファンに救われた」とも語っています。こだわりの仕事で評判が悪ければ、いまの自分はなかった、とのこと。
長年愛される作品は、次の作品、そしてまた次の作品へと続いていきます。
そこには光田さんの「作品へのこだわり」と「ファンへの感謝」が詰まっているのだと思います。
それでは今回はこのへんで!
最後まで読んでくださってありがとうございます(´ω`)