今日は『METAL GEAR SOLID』のイラストを一枚。
ご存じの方なら「眼帯が逆じゃない?」と思うかもしれません。
というわけで今回は
「円環を閉じたメタルギア>眼帯が逆の理由:鏡の中のスネーク」について。
※作品のネタバレを含みます。未プレイの方はご注意ください。
ヴェノム・スネーク 鏡の中の蛇-He is a snake that lived as a mirror-
冒頭にも触れましたが「眼帯が逆じゃない?」という疑問点。
確かにスネーク(与えられた称号によりBIGBOSSと呼ばれる)は、右眼に眼帯をしています。本来ならこうですよね。
ネイキッド・スネークもヴェノム・スネークも、右眼が眼帯です。
ところが。
第1作が1987年7月13日に発売された『メタルギア』シリーズ。
その最初の作品の取扱説明書に描かれている「BIGBOSS」=「スネーク」のイラストは、こうなっています。
そう、そこに描かれている姿は、眼帯が逆なんです。
のちの作品では右眼に眼帯をしているのですが、この最初の作品だけが左眼に眼帯をしているように描かれています。
「古い作品だから間違ったんじゃない?」
「あとから設定が変わって逆になったんじゃない?」
といった具合に、言及されずに流されているのかもしれませんが、このことについて語られているところを、少なくとも私はこれまで見たことがありません。
シリーズの熱心なファンの方の間でもずっと「最初だけなぜか逆」というくらいにしか言われてないんですよね。
私はむしろ物語の完結を受けて「そう繋げたか!」と感服していたので、同様の解釈をしている人を見かけないことが、ずっと不思議に思えていました。
探したわけではないのでどこかにいるのかもしれませんが、私はいまのところ出会っていません。
2015年9月2日。
シリーズ完結作となる『METAL GEAR SOLID V』(以下MGSV)が発売されました。
リリース前に制作サイドのことでいろいろと憶測も飛び交い、ゲーム以外のことでも大きな注目を集めていた作品なだけに、さまざまな解釈や批判などがなされるなか、私は「円環を閉じる」と発言されていた作者、小島秀夫監督の言葉を受け止めつつ、じっくりとプレイしました。
※以下、ネタバレ含みます。
未プレイの方はご注意ください。
『MGSV』は、物語的には第1作『メタルギア』へと続く内容となっています。
己の信念をもっていたはずのスネーク=BIGBOSSが、なぜ第1作『メタルギア』(以下MG1)では、世界を敵にまわすような行動を起こしたのか。
辻褄が合わない。どうやって合わせるつもりなんだ。そう思っていた人は少なくないと思います。
ファンにとって長年の謎であったことの答えが、ようやくMGSVで示されるわけです。
MG1では、BIGBOSSは敵側のボスとして登場し、最後にソリッド・スネークに倒され死亡します。
MG2では、前作で死んだはずのBIGBOSSが再び敵のボスとして登場し、やはりソリッド・スネークによって倒されます。
MGSVで明らかになったのは、実はこのMG1とMG2の「BIGBOSS」は別人であった、ということです。
MGSVでは、プロローグにあたるパートと、本編にあたるパートが別々にリリースされました。
プロローグの最後で襲撃に遭い、BIGBOSSは重症を負います。
本編はそれから歳月を経て目覚めたところからスタートします。
ここに、物語の核心となるカラクリが仕組まれていました。
本編開始後、プレイヤーは「復讐」や「報復」といったものを掲げ、ヴェノム・スネーク(毒蛇)=BIGBOSSとして戦場に復帰します。
襲撃で片腕を喪い、頭部には除去できない金属片が刺さったままで、記憶障害が起きていることが知らされます。
そして本編のラスト。
BIGBOSSとして戦場で活動してきたプレイヤーに、真実が告げられます。
場所は更衣室のような場所で、鏡のついた洗面台の前に立ち、カセットテープを再生します。
そこで聞こえてきたのは、プレイヤーに語りかける「本物のBIGBOSS」の声でした。
プレイヤーは自分のことをずっとBIGBOSSだと思って行動してきたわけですが、そうではなく「BIGBOSSの影武者」だったということが判明します。
プレイヤーが動かしていた人物は、襲撃時にヘリに同乗していた「優秀な衛生兵」だったのです。
整形手術で顔は似せてあるものの、本物をよく知る人たちには影武者であることが気づかれており、それを匂わせる反応はストーリー中に各所で見受けられます。
察しがよければ、途中で「偽物なんじゃないか?」と感じはじめます。
プレイヤーが動かすキャラクターとしては、プロローグのBIGBOSSは本物で、襲撃後の覚醒で入れ替わって影武者となっていたわけですね。
長年の昏睡状態で身体が思うように動かせなかったり、記憶障害があったり、歳もとり痩せていて顔つきが微妙に変わっていることなども、絶妙に演出に利用していると思います。
そしてこの真相が明かされる場面では、鏡に写る影武者の顔が、一瞬「整形前の顔」になるという演出があります。
写真や鏡に真実が写るという演出は昔からよくありますが、鏡を使った巧い演出だなと舌を巻くところですね。
カセットテープから聞こえてくる本物のBIGBOSSの言葉は、熱いものでした。
「本物のBIGBOSSから影武者のBIGBOSSに対する言葉」を借りて、
制作者からシリーズをプレイしてきたファンに対する言葉とも受け取れる内容となっていました。
お前のおかげで 俺はもうひとつの世界を生き延びた
そして もうひとつの歴史を遺せた
お前も もうひとつの世界を創り もうひとつの歴史を遺した
お前は影武者(ドッペルゲンガー)なんかじゃない
お前は もう一人の俺……いや
「俺達は二人でBIGBOSSだ」
今回のイラストは、その言葉を聞いてハッと顔をあげ、鏡のなかの自分をじっと見つめる「影武者のBIGBOSS」を描いたものです。
……まったくの余談ですが、モーションキャプチャーを担当した俳優キーファー・サザーランドさんの仕草がよくわかるシーンでしたね。私にとってはジャック・バウアーですが、表情の動きがまさに「ジャック」でした。
話を戻しましょう。
本物のBIGBOSSからの言葉は続きます。
俺達がこの現在(いま)を創った
この物語(サーガ)も 伝説も 俺達で創ったんだ
俺達こそが世界を 未来を変える
俺はお前であり お前は俺だ それを胸に刻め
忘れるな
ありがとう 友よ
「これからは お前が BIGBOSSだ」
この言葉を聞き、影武者のBIGBOSSは口の端をあげてにやりと笑います。
再生の終わったテープを取り出し、裏面に返すと第1作『MG1』の作戦名がタイトルラベル欄に書かれています。
それを別の機械にセットし、再生する影武者。その機器の横にはMG1がリリースされた「MSX」がチラッと見え、ロゴが表示される画面は見えませんが印象的な青い光が暗い部屋を照らします。
『ここから第1作の物語に繋がる』=『円環を閉じる』というさりげない演出ですね。
鏡のまえに戻った影武者は、自分の写る鏡を義手で叩き割り、鏡のなかの世界へと歩いていきます。
鏡のなかに生きる道を進んでいくわけです。
それはつまり
「鏡写し」=「影武者」として生きていたこれまでを受け入れ、もう一人のBIGBOSSとして戦場に向かうことを選んだ場面だったのではないか、と私は解釈しました。
その後、影武者は本物のBIGBOSSの活動を目立たないようにするため、事件を起こします。
それこそが『MG1』で描かれた事件でした。
つまり第1作『MG1』で、プレイヤーによって倒され、死亡するBIGBOSSはこの影武者だったのです。
そこで、冒頭の「眼帯が逆じゃない?」というお話に戻ります。
MG1の取扱説明書に描かれているBIGBOSSは「影武者」=「鏡写し」なので、ある意味間違っていないのです。
もちろん当初は単純に「意図せず逆になってしまった」のではないかとも思います。
実は別人だった、というのは後づけの設定だと考えるほうが自然でしょう。
「死んだはずが、生きていた」という演出も、よくあるものですしね。
しかしMGSVは「円環を閉じる」ということで、その「逆になってしまった眼帯」にまで、辻褄を合わせる展開を用意してきたのか、と結末を見た私は感服したわけです。
MGSVの発表初期のイメージビジュアルでも「反転」されたBIGBOSSの画像が使用されていました。こちらは本物のBIGBOSSなので、本編の「影武者から見たBIGBOSS」ということになるかもしれません。
FOXとXOFという部隊があったり、登場人物にミラーという名の人物がいたりと、この画像が出た当時はさまざまな憶測、推測がなされていました。
作品を待っている間もファンを楽しませる、その情報の出し方も含めて、小島秀夫監督作品だな、と感じますね。
よ~く見てみると、MG1のBIGBOSSの周囲には、発光するものが描かれています。
これは鏡の反射と見ることができなくもない……かもしれません。
というわけで、今回はこの初期のBIGBOSSと、完結作であるMGSVの鏡に写ったBIGBOSSを並べて描くことにしました。
これまで自分だけの解釈として胸にしまっておきましたが、思い切って描いてみました。
念を押しますが、これはあくまで私の解釈です。
「そうじゃない」と考える人と議論をするつもりは一切ありません。
作品はプレイヤーのもとに届いたあと、それぞれの受け止め方があっていいと思います。
それでは今回はこのへんで!
最後まで読んでくださってありがとうございます(´ω`)